『WORST』の舞台に花木九里虎をしっかり送り出せるように、日々奮闘しています。鈴木リュータ先生

『WORST外伝 グリコ』、大人気ですね。

鈴木:ありがとうございます。髙橋先生あっての作品ですからね。やっぱり九里虎というキャラクターが強烈なので、それに引っ張られてしまう感じはあります。それに負けない強烈なキャラをどう作るか、これが大きな課題です。

『WORST』のアウトローの中でも九里虎はシンボル的存在ですし。

鈴木:そうなんですよ。だから『WORST』の舞台に花木九里虎をしっかりと送り出せるように、日々奮闘しています。

スピンオフの中でも、九里虎は一番強烈なキャラだと思うんですが、連載が決まった時はどんなお気持ちでしたか?

鈴木:いやー、そもそも皆さん、敢えて九里虎には手を出さなかったんじゃないですかね(笑)。やっぱり怖いですよ、九里虎を描くとなると。実は僕もこの連載が決まるなんて思ってなかったんです。

そうなんですか?

鈴木:ええ。最初は担当の編集さんが、「もし『WORST』のスピンオフをやるとしたら、どのキャラがやりたいですか?」って改まった感じで聞いてきたんですよ(笑)。思うところはいろいろありましたが、「僕なら九里虎の中学時代が見たいですよね」って答えたんです。博多時代はどんな感じだったのか、どうやって鈴蘭に来たのか。まさか大魔王のまま生まれてきたワケでもないですし(笑)。

それはそうですね(笑)

鈴木:で、そんな話を担当さんとしていたら「それ、ちょっと面白いじゃないですか。ネーム描いてみましょうよ。決まるかどうかは別として」って。そういうことならって、僕も楽しんで好きに描かせてもらいました。それが第一話のネームなんです。それをみた担当さんに「面白い。2話目、3話目も描いてみてよ」って言われました。そのとき僕はオリジナルの作品も描いてましたが、居酒屋のアルバイトもしていたんで(笑)、「時間はあるし、折角だから描いてみるか」って感じで挑戦したんです。とにかくプレッシャーを感じないで描けたのが良かったのかも知れません(笑)。

花木九里虎を描くのが楽しかったんですね。

鈴木:そうです。多分、他のスピンオフを描いている先生方も、当然「九里虎」ってキャラが頭に浮かんだと思うんです。でもやっぱりキャラに向かい合ってみると、怖いというのも正直な気持ちです。『WORST』本編の中でも、主人公たちが憧れる別格の存在として登場しているわけで、物語の中でもその立ち位置で成立している。その破天荒なキャラがドラマを動かすとなると、日常すら想像が難しい。連載が始まってから改めて実感して「これはしまったなぁ」と思いました(笑)。

そうですね、きっと毎日が破天荒なんでしょうし(笑)

鈴木:難しいですね(笑)。自分でも納得行くドラマ作りがなかなかできなくて。「この男は何のために戦っているのか」っていうことを少年漫画に落とし込むのことに苦労します。例えば花とか春道は、鈴蘭に来るために生まれてきたっていうか、『クローズ』『WORST』のために生まれてきた男たちって気がするんですよ。物語のど真ん中にいるだけど、九里虎はその斜め上にいるキャラなんで、ケンカとかの動機がやっぱり難しいですよね。だからこその大人気キャラなんでしょうけど。

いや、たしかに難しい感じがします。

鈴木:そう考えると、物語がただの中学生たちのケンカで終わってしまうと九里虎である必要がない。九里虎はケンカが好きなわけではなく、無駄な争いはスカしてしまうんですよ。本当に肉食動物っていうか、不要な争いはしない。縄張りに入ってきた敵は倒すけど、基本的にはハーレムで過ごしている獅子というか。物語の最初の「全中戦争」でも、描いていると九里虎が自然と逃げてしまうんです(笑)。だから九里虎を戦争に巻き込むのは本当に大変でした(笑)。

なるほど。基本無関心ですもんね。

鈴木:誰が強いとかじゃなくて、自分が負けなければいいというのが、九里虎のスタンスだと思うんです。このSS級キャラを巻き込むには、こちらがもっと大きな渦を作らないといけない。この「渦」作りが一番の力作業というか、こちらの根性の見せ所ですね(笑)。

ある意味では、九里虎と作者の対決ですね。

鈴木:まさにもう、毎週毎週の戦いですよ(笑)。「おいおいお前、どこ行くんだよ!」「お前の楽しいことばっかりやってると、物語が進まないんだよ!」みたいな(笑)。だからこそ歯ごたえがあって、そこが作品のエッセンスになっているんじゃないかと思います。

九里虎が主役ですから、読者は大いに期待している訳で、その辺りのプレッシャーはいかがですか?

鈴木:やっぱりありますよ。特に最初の方なんか、「鈴木リュータって誰だよ?」とか「髙橋先生が描いてよ!」みたいな感じが強かったと思います。穿った見方をされるだろうなってことは覚悟してました。無論、自分自身も穿った見方をしてましたし、九里虎の中学時代を髙橋先生が描いてくれるのを、誰よりも僕が待ち望んでました(笑)。

髙橋先生とお会いしたことはありますか?
鈴木:はい、描く前に挨拶にお伺いさせていただきました。お酒も一緒に飲ませていただいて。恐縮しながら水割りを飲んでいたんですが、先生が「鈴木くん、水割りなんか飲んでる場合じゃないでしょ」って(笑)。そう言われたら、もうロックで行くしかないですよね。僕が中学、高校の時から大ファンだった髙橋先生ですから、これはもう言わば神のお言葉です。「はい、わかりました!」って飲んだら、速攻潰れてしまいました(笑)。おそらく無礼を働いたような気もするんですが、最後の方はほとんど覚えていなくて……いろいろな意味で、髙橋先生には改めて御礼と謝罪を申し上げたい所存です。ありがとうございました、そして本当に申し訳ございませんでした(笑)。
ちなみに『クローズ』『WORST』はいつごろお読みになったんですか?

鈴木:確か中学生くらいだったと思います。その頃に友達の家で『クローズ』を知りました。男の何たるかってのはわかりませんでしたが、ファッションがすごく魅力的だったんですよね。それで好きになって、友達と「春道が卒業したら、やっぱりゼットンが最強になるんだよな」なんて話をしていたら、他の友だちが「もうゼットン負けたよ」って衝撃発言をしたんです。「うそ! 誰にだよ!」て聞いたら『その後のクローズ』って単行本に描かれてるよって。そのまま速攻本屋で購入して読んでみたら、本当に負けてた。その時に出会った男が「花木九里虎」だったんですね(笑)。

あれは掲載当時も衝撃でした。

鈴木:ですよね、当時の感覚としては、テレビの速報で「ゼットン敗れる!」って流れたような感覚で、自分にとってもかなりの緊急事態でしたから(笑)。でも九里虎のビジュアルを見て、納得してしまいました。この話でしか登場してないのに、そのインパクトたるや強烈でしたね。『WORST』の中の天狗の森の対決で、九里虎が光信を蹴り一発で倒したあとの「これが花木九里虎か!」的なシーンがありますが、間違いなく自分も、あのシーンの中の一人みたいなもんですね(笑)。忘れられません。

そんな衝撃的な想い出がありつつ、ご自身が九里虎の中学生時代を描くことになられた訳ですが、描くにあたって留意していることはありますか?

鈴木:そうですね、常に意識しているのは、雑誌の向こうにいる読者というか、僕の想像の中での兄ちゃんですね。コンビニ弁当食いながらかもしれないし、学校の隅で読んでるかも知れない、僕がこの作品に憧れて読んでいた時の、『クローズ』『WORST』を読んでいた人たちです。その無骨な人たちが求めているのはなんだろうかって考えながら物語を作ります。その人を意識した時に、少しでも髙橋先生の作品に近づくこと、その一人のために描くことが、万人に受け入れられる条件なんじゃないかなと、ものすごい意識してます。
自分はヤンキーでは無かったですけど、その頃の自分も読んでいるのかな、なんてことも考えてますね。そもそも九里虎ってキャラは、きっと誰とケンカしても勝ってしまうんですよ。だから誰とケンカするのか相手も選ばないと。それを考える時に、雑誌の向こうにいる存在っていうのは、僕の中ではとても重要です。

大事な視点だと思います。話は変わりますが、まだまだ続く九里虎の物語、今後の意気込みなどを教えていただけますか?

鈴木:そうですね、恐れずに言えば「打倒髙橋ヒロシ」ですね。そう言いつつ、無理なのも分かってるんですけど(笑)。でもこの題材を頂いて、少しでも、足の先ぐらいでもいいから追いつきたいっていう気持ちです。僕にとっては毎週が覚悟の連続で、この作品でデビューさせてもらいながら、この作品が最後って気持ちで描いてます。

一作入魂ですね!

鈴木:はい。だから「来週でこの連載は終わりだよ」と言われれば、明日にでも居酒屋やパン工場で働く覚悟はできてます(笑)。でもそれを言われるまでは、髙橋先生の背中を全力で追いかけていきたいと思ってます。出し惜しみするような力もないし、出しきらないと九里虎を描くことは出来ないと思いますので、あるものは全て出し、無い力は付けながら頑張りたいと思います。

最後に『クローズ』30周年について、髙橋先生と読者の皆様にコメントを頂けますでしょうか?

鈴木:そうですね、30周年なんて、本当に大偉業だと思いますし、未だ現役で走り続けられている先生ですが、そのままずっと活躍していただきたと思ってます。僕も無い力を振り絞って、ある意味では兄であり、ある意味では父である師匠の背中を全力で追いかけていくつもりです。
そんな気持ちを抱きつつ、髙橋先生には「おめでとうございます」と「ありがとうございます」の2つの言葉を捧げさせていただきます。また読者の皆様の期待に答えられるよう、ワクワクドキドキする物語をお届けできるように頑張ります。一緒に『クローズ』『WORST』の世界観と熱い思いを、共有していきましょう!

ありがとうございました。

鈴木リュータ

生年月日:
1988年2月16日
出身地:
東京生まれ山育ち
血液型:
水瓶座B型
経歴:
講談社で読み切り1本、週チャンで短期連載3話。別チャンで読み切り1本を経てWORST外伝グリコ連載開始。
好きな映画:
「生きる」「蒲田行進曲」「12人の怒れる男」
好きな本:
「死神の精度」「チャイルド44」「容疑者Xの献身」
クローズ・WORST以外で好きな漫画:
「リストランテパラディーゾ」「ひきだしにテラリウム」「まんが道」
好きな曲:
「Hi-STANDARD/STAY GOLD」「HUSKING BEE/WALK」「SUPER STUPID/WHAT'S BORDERLESS?」
座右の銘:
人生最後はどうせハッピーエンド