『WORST』の舞台に花木九里虎をしっかり送り出せるように、日々奮闘しています。大東駿介先生

『ドラマ24 浦安鉄筋家族』の春巻役、ヤバいくらいの再現度で驚きました。

大東:本当ですか、ありがとうございます。

「4発目」での登場でしたが、ご飯のシーンから始まり、気絶シーン、そして子供たちとの教室でのシーン、どこを見ても春巻そのものでした。

大東:いやー、僕も春巻は本当に好きなキャラですので、演じることが嬉しくて。連載初期の春巻と現在の春巻はかなり違うキャラですので、その中間を取って演じようと考えました。

あの演技をみたら、春巻を他の役者さんが演じることは、もう無理じゃないかと思います。

大東:ありがとうございます(笑)。「想い」の強さってのは、役作りでも本当に大事なことだと感じます。僕は本当に「春巻龍」というキャラが好きなので。

そうなんですね! ドラマの舞台は千葉県浦安市ですが、大東さんは大阪府堺市の出身なんですよね?

大東:そうです。僕の住んでいたところは、浦安とは違った意味で、なかなかヤンチャな人が多い地域です(笑)。堺出身の役者さんもたくさんいます。片岡愛之助さんがそうです。お笑い芸人なら「金属バット」の小林圭輔って芸人がいるんですが、彼は僕の幼馴染ですよ。

そうなんですね。

大東:僕は工業高校出身なんですが、学校生活はなかなかハードでした(笑)。生徒はほぼ男子ばかりで、女子は全校で一桁いるかいないか。それもあって、仲間はヤンチャなヤツが多かったですね。僕は比較的普通でしたけど、ケンカ自慢が集まるような学校でした。つまり、必然的に『クローズ』は全校生徒の愛読書になるワケです(笑)。

それは強烈ですね(笑)

大東:制服は学ランでしたから、着こなしは『クローズ』のマネをしてましたよね。海老塚三人衆は、その着こなしの代表みたいな存在だったじゃないですか。ビジュアル的にも性格的にも、僕は本当にヒロミが大好きだったんです。

そうなんですね!『クローズZERO』シリーズでは、大東さんはまさにその桐島ヒロミ役だった訳ですが。

大東:だから本当に願ったり叶ったりっていうか。春巻役もそうですけど、やっぱり「想い」の強さが大切ですね。オーディションの時から桐島ヒロミ役しか狙ってなかったといっても大げさではないです(笑)。あのオーディションは忘れられないんですよ。その日の天気や暑さ、誰が一緒にオーディションを受けたかとか、鮮明に覚えてます。自分の中でも一世一代の「勝負の日」でした。

凄い意気込みが感じられますね。

大東:完全にヒロミ役を狙って勝負に行きましたからね。デビューして間もないころだったんですが、そのタイミングで『クローズ』が映画化される……いや、そのタイミングに自分が役者としてスタートしているという、自分的には奇跡的な環境にあったワケです。だから、これは偶然ではない、絶対にヒロミ役を獲りに行かなければならないっていう強い気持ちがありました。

その気持ちの強さが桐島ヒロミ役を決定づけたと。

大東:オーディションの合格通知が来るわけですよ、「桐島ヒロミ役」でって。でも不思議なもんですよね、もっと喜ぶかと自分でも思ったんですが……その瞬間から違う戦いが始まったんです。

といいますと?

大東:精神的な戦いですよね。急に自覚が芽生えたんですよ、これは試されているって。へらへら喜んでる場合じゃないと。通知を受けた時点では、他の役者とも顔を合わせていません。しかし合格した各々が、他の人間を意識し出すワケです。そしてファンからも注目されるだろうと。三池監督が「この作品が劇場公開されたら、狙われるから気をつけるように」って仰ったんですけど(笑)、本当にその通りの意識を持ちました。現場に入れば、役者同士はぶつかり合うことで熱量が上がっていくし、映画を観に来るファンは原作の明確なイメージを持って劇場に足を運ぶ。演じる自分は、演者からもファンからも「あれが桐島ヒロミなのか?」って試されるんですよ。その自覚が、合格とともに大きくなりました。無論、自分でもどこまでできるのか試している感じがありました。

なるほど、自分、他のキャスト、ファン……本当に精神的な葛藤ですね。

大東:撮影が始まってみれば、思った以上に高揚感とヒリヒリした感じが入り交じる現場になりましたね。

セットもすごかったですもんね、学校とか。
大東:あれは贅沢でしたね。まるまる学校ひとつを、美術の林田さんが『クローズ』の世界にしてしまいましたから。どこを見ても、どこを歩いてても鈴蘭。その中での、あの現場の緊張感……デビューまもない時にあの環境を体験できたことは、今でも本当に贅沢だと思います。あれだけ壮大なセットは『クローズZERO』か「大河ドラマ」かって感じですよね。
あれは髙橋先生も感動したみたいですね。

大東:そうでしたね、写真撮りまくってましたもんね(笑)。でも髙橋先生は、そういうところに懐の深さを感じます。自分の作品に対してオープンというか、僕たちが漫画のキャラを演じることについても快く受け入れてくださいましたし。一緒に楽しんでくださっていることが、本当にありがたかったです。

髙橋先生とは直接お話する機会はあったんですか?

大東:ありました。髙橋先生は愛情深く人と接するんですよ。小栗旬さんや山田孝之さんとかそうそうたる顔ぶれの中で、当時ペーペーだった僕にも、気さくにいろんなお話をしてくれて。僕という人間に興味を持ってお話してくれるんですよね。プライベートの話も含めて、本当にいろいろお話しました。話しているうちに、段々と熱い話になっていくんですが、きちんと返してくれるんです。その時に思ったんですが、先生は「人」をよく見てるというか、人間を楽しむ天才なんだなって感じました。そういう視点があるから、漫画のキャラクターたちも、それぞれが彫りが深くなるんだなと。

ヒロミについての話とかはされましたか?

大東:いや、ほとんどしてないと思います。というのは、あの頃の僕は「自分が演じる役は自分で作り上げる」っていう気持ちが強くて、人に聞くことはできなかったんです。聞くことは甘えとすら思っていました。先程も触れましたけど、現場にもそういう雰囲気があったんですよ、お互いが試し試されているっていう緊張感。例えば入学式で、ヒロミが飛んできたパイプ椅子を避けて亜久津を蹴飛ばすシーンがあるんですけど、それを出番のない小栗さんとか高岡さんとかやべさんがたちが、わざわざカメラの周りに集まって見ている。すげープレッシャーを与えてくるんですよね(笑)。それで「おー、ヒロミだよ、これは!」とか「そうか? 本当にヒロミなのか、あいつは?」とか聞こえてくるんです。そんな状況でシーンのテストに入って、パイプ椅子を避けたところ、「なんだよ、パイプ椅子、全然当たらなそうじゃん」「ビビってんじゃねーの?」と聞こえてくる。だから本番では本当に当たるくらいで避けたんですよ。そうしたら「おー、やるじゃん!」って声が聞こえてきたんですけど、その後に「そうか? 俺だったらパイプ椅子を殴り飛ばしてるな」って声が(笑)。話が変わってるんですよ(笑)。まぁそのくらいの熱量だったといいますか、その現場において、鈴蘭一年の頭を獲るためにはどんだけの気合が必要か、っていう覚悟が試された感じですね。そんな覚悟じゃ、映画観たヤツラはお前に勝てると思い込むぞ、みたいな。この雰囲気をデビュー間もないタイミングで経験させてもらったことは、役者人生の中でも本当に大きいことでした。当時も凄い経験をしているという認識はありましたが、時間が経つにつれて本当に凄い経験だったんだなと思うことが多々あります。メチャメチャいろんなものが詰まった濃厚な時間だったんだなと。

撮影当初から、凄い現場ということは聞いてましたけど、そこまでとは。

大東:そうですね、みんな体中アザだらけでしたし。アクションシーンはスタッフや監督は「安全第一で!」って声がけするんですが、キャストは「はい!」って返事しながら「顔以外は当てていこ!」みたいな(笑)。

強烈ですね、それは!

大東:現場がヒリヒリしていた分だけ、一体感もあったんです。自分が出てる出てないに関わらず、どのシーンにもみんな参加しているみたいな。クライマックスの雨の中で小栗さんと山田さんが戦うシーンの撮影は、僕は休みだったんですけど見に行きました。その日の撮影はメチャメチャ長かったんですよ。ですから撮影の最中に日も落ちてきて。みんなが喧嘩しているバックで沈んでいく夕日……あの光景は、一生忘れないですね。そこにこの現場にいられた幸せと、充実感がすべて詰まっていた気がしました。あれから現在まで、いろんな青春ドラマや学園ドラマに出演しましたけど、未だにあの時の充実感が色褪せることはないですね。余談になりますが、設定上の理由から、ヒロミのケンカのシーンが減ってしまったんですよね……もっと戦いたかったなぁと、素直に今でも思います(笑)

冒頭でも言われてましたけど、原作の『クローズ』もかなり読み込んでおられたんですね。

大東:そうですね、『クローズ』育ちとでもいいますか(笑)。『クローズ』の魅力って、どのキャラクターもしっかり個性を持っているってことですよね。それぞれが物語を持っていて、脇役があまりいないというか。どのキャラクターもみんな生きてる。読者が誰に目を向けるかで、楽しみ方もいろいろあります。中でも坊屋春道は圧倒的な存在感があって、映画でも「春道は誰がやるんだよ?」って関心が集まったんですけど、結局登場しないことになりました。もう真似できないくらい強烈な重要キャラクターってことですよね。人間力の高い、魅力のある役どころです。そんなキャラクターたちが織りなす物語ですから、面白くないワケがありません。しかも、作品の中で世代がしっかりと変わっていくじゃないですか。鈴蘭にも九里虎や月島花が来て、時代が変わっていく。鳳仙でも金山丈、月光兄弟、武装も五代目、六代目、七代目と続いていく。「生命」とか「魂」ってものは動いて行くものっていうか、連綿と紡がれていくものじゃないですか。個々人の成長もそうですが、街が、時代が育っているっていう面白さに大きな魅力を感じますよね。

そうですね、春道登場から花の卒業まで、足掛け6年の物語は濃厚ですよね。

大東:そうそう、『クローズZERO』も漫画になったじゃないですか。漫画から生まれた映画が、また漫画になる。漫画から魂を汲み取った、役者たちの演じた人物たちが、また漫画のキャラクターになる。これってうれしいし凄いですよね。それだけみんな『クローズ』の本質を押さえて挑んでいたってことですから。僕はヒロミ役でしたし、実際ヒロミが一番好きなキャラなんですけど、ヒロミと阪東の関係性がとても好きで、そこを演じてみたかったなと思いますね。あの映画では時系列的にありえないことなんですけど(笑)。

ヒロミの他に好きなキャラはいますか?

大東:そうですね、ヒロミ以外となると選ぶのが難しいですけど、やっぱ河内鉄生は好きですね。あと花澤三郎、ゼットン。おそらく彼が、初めて「成長」というものを見せてくれたキャラだと思うんです。当初は、無表情な春道の後輩って感じでしたが、どんどん成長して、いつの間にかダボシャツを着てヒゲを生やして、テキ屋の兄ちゃんみたいになった(笑)。「貫禄」がついていく過程を見れましたよね。そういう意味では本当にこちらが見守ったキャラだと思います。ゼットンが残した「最強より最高」って言葉……忘れもしない、高校2年の時に学校の教室で読んだんですよ(笑)。鳳仙で言えば美藤ですよね……こんなふうに、キャラを挙げたらキリがないんですけど、さっきも言いましたけど、その街自体の変化というか、成長が面白いですよね。人物の相関関係とか、勢力図とか。そうそう、パルコ&デンジャラーズも面白かった。あと龍信のセリフの書体もよかったですね、どんな声かは想像できなかったですけど。その代わり、秀臣は間違いなく声優の中尾隆聖さんイメージですね(笑)。

最後に、髙橋先生にメッセージをお願いいたします。

大東:30周年って……本当に凄いですよね。少年時代にこの作品に出会えたことも幸運でしたし、『クローズZERO』に出演できたことも本当に幸せでしたので、先生には感謝しかありません。髙橋先生にお会いしたときも、実はその「手」を見てたんですよ。「この”手”から、あの熱い物語が生まれたのか」って。『クローズ』は時代を経ても色褪せない物語ですから、これからまだまだ新世代の人たちが、『クローズ』を読んで感動したり、学ランの着こなしを真似たり、肩で風切ってあるいたりすることでしょうから(笑)。それを温かく見守っていただくためにも、お体を大切にしていただきたいと思います。本当にありがとうございました。

発売中の月刊少年チャンピオン9月号では大東駿介さんサイン色紙プレゼントを実施中!!

大東駿介

生年月日:
1986年3月13日
出身地:
大阪府
血液型:
A型
身長:
182センチ

「野ブタ。をプロデュース」でデビュー。
「クローズZERO」シリーズやNHK大河ドラマ「平清盛」などに出演。
8月からの新ドラマ「妖怪シェアハウス」にも出演中。
「浦安鉄筋家族」では春巻龍役で絶妙な演技が話題となっている。