俺も群れずに生きてきたんで。 春道には『美学』が 詰まってると思うんですよ。AK-69

AK:いやー、今日はちょっと”アバラ”が痛いんですよ。昨日、朝倉海とスパーリングして、ちょっとイッちゃったかなー(笑)

大変なところありがとうございます(汗)。

AK:『クローズ』のインタビューですしね、このくらいじゃないと(笑)。

いやいや(汗)。では今日はよろしくお願いたします。さっそくなんですが『クローズ』はいつ頃お読みになったんですか?

AK:高校生の時ですね。中学の時には『湘南爆走族』とか、他の「週刊少年マガジン」系のヤンキー漫画とかも読んでましたよ。今は漫画とかあんまり読む時間がないですけど、当時、仲間の中にやたらヤンキー漫画が好きなヤンキーがいて(笑)。その彼から教えてもらって読みました。数々の名作ヤンキー漫画が彼から回ってくるんですが、その中に『クローズ』もありました。

ということは、高校時代とかはヤンチャだったんですね。

AK:うーん、そうですねー、人並みに道を外していたんじゃないかと(笑)。でも、ちょっと普通の不良のイメージとは違うと思います。っていうのは、俺の通ってる高校は地元でも有名な進学校だったんです。

そうなんですか!

AK:俺は小さい時から剣道をやってまして。そっちで推薦的な話も来ていたんですが、普通に勉強で試験受けて入学しました。自分で言うのもなんですけど、ちょっと人とは違ったんですかね。勉強もそんなにやってたワケじゃないですし。中学の時なんか、ただテスト前に教科書見て一夜漬けする感じ。それで順位が学年で1ケタとか、県の統一模試で2位だとかだったんです。

それはすごいですね。地頭がいいんですね。

AK:そうなんですかねぇ。授業中とかは寝てましたし、ホントにそんな勉強はしませんでした。でも、家の中ではいい子でいたかったんですよね、特に母親の前では。母親は厳しかったんで。さっきも言いましたけど、俺は昔から剣道やってて、それなりに強かったんです。それもいい子のひとつ。とにかく家の中での体裁を整えたかったから、勉強もその形のひとつ。一夜漬けとはいえ、集中してやりました。完全にイヤミなんですけど、毎日勉強しているやつらには「お前ら毎日勉強してるけど、おれはチョロっとやってお前らの上だからなー」なんて言ってました。だからもちろん、嫌われてたんですけど(笑)。中学校まではこれで充分でしたね。高校は進学校だったから、さすがにそうはいきませんでした。内弁慶ってのはよく聞きますけど、オレの場合はその逆で、家の中ではおとなしくて、外に行くと豹変してました(笑)。

結果でものを言われたら、誰も何も言い返せないですね(笑)。

AK:でも見た目はヤンキーではなかったんですよ。どちらかというとオシャレな感じ。学校にいるヤンキーたちとはツルまないで、寧ろそいつらと渡り合ってる感じでした。だから中学では怖がられてて、一匹狼みたいな存在でしたね。その時にちょっと大きな問題を起こして、転校させられちゃうんですが、その転校した先の中学が「中学生日記」みたいな”爽やか青春!”って感じの中学校だったんです(笑)。ヤンキーなんか一人もいないし、合唱コンクールとかは熱く頑張って涙流しちゃうみたいなところで、俺もそこで心が洗われていくんですよ。といっても、ずっとヤンチャなままでしたけど(笑)。

優等生にはなれなかったと(笑)。剣道はいつ頃から習っていたんですか?

AK:小学校一年からですね。当然のことですが、最初から強いわけではありませんでした。最初はBチーム。3、4年生ごろからAチームになりましたけど、そこからみんなに内緒で別の道場に通ってさらに鍛えました。その道場では血のションベンが出るまで練習しましたね。おかげでドンドンのし上がって行って、尾張地区最強までは登り詰めました。この経験は大きかったんです。ラップでも才能がないところから成り上がってきたんですけど、努力すれば成り上がれるって知ってたワケです。ま、努力しているところをあまり人には見せたくないですけどね(笑)。

それは凄いと思います。やはり努力も並じゃない。

AK:まぁそんなこんなありつつでしたが、県内でも有名な進学校に入学しました。そこで通学路で一緒になる高校……公立私立を問わずに、ことごとく全部シメに行きました(笑)。自分の彼女が通ってた県外の高校が、それなりに悪い学校として有名で、そこもシメに行きましたね。一人で駅に乗り込んでいって(笑)。そんな生活でしたが、いろんなヤツと仲良くなったり、生意気なヤツをシメたりしているうちに、気がついたらそいつらの中心に自分がいましたね(笑)

激しいですね、行動は完全に不良です(笑)

AK:そうですねー、今考えてもとんでもない高校生活を送っていたと思います(笑)。「あの進学校には、なんかスゲェヤツがいる」って有名でした。途中休学したりいろいろありましたが、最終的には自主卒業っていうことになりまして(笑)。その中でラップに出会って、今があるんですけどね。

ケンカはかなりされたんですね。

AK:そうですね、かなりやりました。でも先輩たちにボコボコにされたことはありましたが、タイマンとかで苦戦した記憶はないですね。小学校の時に、ある一人に苦戦したくらいかなぁ(笑)。彼には素直に身体能力の差を感じましたね、リベンジでも負けました(笑)。あとちょっと変わり種としては、隣の中学の集団に呼び出されたことがあるんですけど、それが本当に何人いるのかわからないくらいの大人数で(笑)。これはケンカしたらトンデモないことになると思ったんで、「オレの負けでいいや、どうしたらいい?」って言ったんです。そしたらそこの頭がノート出して「ここに『負けました』って書いてくれ」って言ってきたんで、書きました(笑)。そしたら他の奴らまで「オレにも」「オレにも」ってなって。

それ、ただのサイン会じゃないですか(笑)。
AK:そう、「負けました」のサイン会(笑)。どんだけ書いたか覚えてないくらいですよ、「はい、はい、はい次の人」みたいな(笑)。で、後になって、その頭だったやつが青春中学校に転校してきたんですよ。仕方ないですよね、シメました(笑)。考えてみると、そいつを始め、オレに『クローズ』教えてくれたヤツも、そこに転校させられてきたんですよね。青春中学は、更生施設みたいな場所だったんですかね(笑)。
ツワモノのエピソードですね(笑)

AK:やっぱり剣道やってたんで、よっぽどのヤツ……格闘技とかやっている人間でなければ、あまり相手にならないですよね。間合いのとり方ひとつにして全然、玄人と素人の差ですし。しかも俺は先手必勝のタイプだったんで、一方的なことが多かったかも知れません(笑)。でも武器を使うようなことはありませんでしたね。剣道経験してるだけに、その威力が解ってましたし、父親からも武器だけは使うなと厳しく言われてました。

話は『クローズ』に戻るんですが、好きなキャラクターはいらっしゃいますか?

AK:リンダマンと龍信は印象的ですね。二人共寡黙な感じで、俺とは正反対なんで。でも共感するのは春道です。「カラスでいーじゃねーか」って感じのことを言ってますけど、これがラップの世界と重なるんです。ラッパーって今でも社会的な地位が低いと思うんですよ。そのクズの中でも光るものとして、俺はラップに惹かれているところが大きいんです。あと「俺がカッコわりぃと思うことはしねー」みたいなスタンス。やっぱり人間って、人からどう見られてるかを考えたらブレがちになるんですけど、一番大事なことは、自分が自分を納得できてるかってことだと思うんですよね。そういうところで、春道の生き方には共感しますよね。

そうですね、春道は群れないですし。

AK:そう、俺も群れずに生きてきたんで。春道には「美学」が詰まってると思うんですよ。例えば三代目武装とのケンカの時なんか、何も言わずに一人で乗り込んで行くじゃないですか。フザケているように見えるし、不器用ですけど、信念を持っている。周りもね、特にヒロミが春道の心境を皆に語って聞かせたりする。それって中々できないことだと思うんですよ。人知れず戦って、結果だけで示す。そして、それを周りがきちんと理解している……どうしても自分で人に言いたくなっちゃいますよね、自分の思惑とか、考えとか。人知れずと言いつつ、知って欲しいみたいな。俺って小市民だなァ(笑)。

いえいえ。でも人知れぬ戦いって、現実の中でやると本当にみんなに知られないものだから、やった方はちょっと寂しくなりますよね(笑)。

AK:そうですよね、「人知れぬ美学」には「人知れぬ行動を人に知って欲しい」という矛盾があるんですよ(笑)。俺も「人知れぬ美学」のタイプなので、俺の周りには俺の人知れぬカッコよさを知ってるヤツがいるんです。でも俺が「それは俺らだけが知ってればいいんだよ」って言うもんだから、そいつらも「よし、俺も誰にも言わない!」ってなるワケで(笑)。そうなると本当に広まらないから、俺は言わないけど「お前らは言え!」みたいな(笑)。春道はそんなことは言わないし(笑)、その姿勢には本当に美学を感じます。そんなかっこいいことをしておいて、普段はバカってのもね(笑)。

本当にふざけて見えますよね。

AK:龍信とかリンダマンって、やっぱり漫画的なキャラだと思うんです。でも春道は破天荒な主人公ですけど、実は等身大の魅力を持っている。アーティストの世界でやってると、カリスマの度合いがどれだけ大切かってことを日々感じるんですよね。若い世代の育成も手掛けてますけど、歌が上手いヤツ、ラップが上手いヤツってのはごまんといます。でもそれだけじゃやっぱりダメなんですよ、カリスマ性がないと。それって、言葉では説明できない部分なんです。身に付けろって言って付くものではないですし。カリスマ性はいろんな言動とか、行動とか、バランスで作られると思うんですけど、春道は主人公だけあってそれを持っている。「みんな愛してるぜ」って言葉にはしないけど、伝わってる。「俺勇気あるから」って自分で言わなくても、みんなそれを知っている。

心の奥底にあるものが、ブレずに行動に出るかどうかってところはカリスマの大きなポイントかもしれませんね。だからこそ伝わる、といいますか。

AK:歳を重ねるにつれて、漫画とかって触れる機会が少なくなるんですよね。アーティストってのは比較的そういうものに触れている人も多くて、インスパイアされて作品を作る人もいますけど、俺は自分の人生から作品を作ってるから、比較的触れてない方だと思います。そんな中でも『クローズ』は、読むことで自分の気持ちを思い出させてくれるっていうか、こうなりたいって思わせてくれるバイブル的な作品ですね。忘れがちな、シンプルな、本能的なカッコよさ。歳を重ねると理屈が先にきちゃうみたいなところもあるので、そういうピュアなものを思い出させてくれますね。そうそう、あと、単行本の中に差し込まれてたコラム、あれが凄い好きでした(笑)。

「勝手に言わせてもらえれば」ですね。

AK:あれが本当に面白くて。ガキだった俺が読んで興味深かったのは、自分のちょっと先を歩いている人が書いてるってこと。たとえばクレジットカードの審査に落ちた話。漫画家はカッパとたぬき(※注:当時のクレジット会社のCMで使われていたキャラクター)よりも信用がないのか! 出世したって作らねーからな! って吠えてる(笑)。いい意味で「大人げねーなー」って思って(笑)。あと自分の好きなバンドについて語ったあとに「心に響かないバンドベスト5」みたいなことも語ってて(笑)。結構メジャーなバンドの名前が上がってるんですが、この時はまさか自分が漫画家としてここまで売れるって想像してなかったのかもしれませんね(笑)。そこのトンガリ具合に、自分と同じ匂いを感じたのをすごく覚えてます(笑)。

忌憚なくいろんなことを書かれてますよね(笑)

AK:今は本当に押しも押されぬ漫画家として成り上がった人ですけど、ブーム到来前のコラムだからでしょうね、既存の体制や大きな壁に向かって「今に見てろよ!」みたいな気持ちが全面に出てる。それは自分も持っているんで共感しますよね。これを読むことで励みになるというか、こういう気持ちを今の若い子たちにも知って欲しいなと思いますよね。この漫画もそうなんですけど、強い敵を倒せば、またもっと上の敵や困難など、壁が現れてくる。この繰り返しですよ。俺もこの歳までヒップホップやってますけど、40代でまだ最前線にいられることは、客観的に見ると驚きですね。でもそれは目標があるからで、ひとつの目標を達成すれば、次の目標が現れる。俺は特に現状では無理だと思われる目標を周囲にぶち撒けることで、「今に見てろよ!」って気持ちを燃やし続ける。人に言うことで自分を追い込むというか。

お話は尽きませんが、最後に、髙橋先生へのお祝いのコメントお願いいたします。

AK:30年もヒットし続けてるってのは、本当に凄いことだと思います。ヤンキー漫画では間違いなくトップですし。俺たちのバイブルであるレジェンド作品を生み出した先生に、心から敬意を表したいです。またものを作る人間としても、本当に尊敬しています。そして何よりも0からスタートしてここまで登り詰めた姿に、勇気をもらいましたし、憧れと感謝を感じています。これからも頑張って下さい!

AK-69

愛知県出身。孤高のヒップホップアーティスト。アンダーグラウンドからマイク1本で這い上がり、シーンの頂点に上り詰めたカリスマ。
アメリカの名門レーベル「Def Jam Recordings」との契約、日本武道館2daysライブ、名古屋城から史上初の配信ライブなど、ヒップホップ界で、前人未踏の記録をいくつも達成し続けている。
8月に発売した最新アルバム『LIVE:live』ではiTunes総合1位を含む8冠を記録した。